6月15日 AM1:00
渋谷区円山町、渋谷駅を道玄坂から更に先に進んだところにある
この町は風俗店と飲み屋とホテルが立ち並ぶ。夜になるとしらふ
の人間よりも酒気を帯びている人間の方が多く歩いている。
渋谷の中心地からもさほど離れてはいないが、路地裏に入ると人
通りも少なくなり、一人で歩くのは怖い印象も受ける。
コインパーキングに備え付けられている自動販売機の横で地面に
うずくまっている男がいた。
深夜の見回りをしていた警察官は足を止め、手に持ったライトで
男を照らした。
酔っ払いが地面で寝ていることはこの街では珍しくないが、重病
患者や薬物中毒者なら応援を呼ばなくてはいけない。
こういった面倒をかけさせるやつが多いから、深夜の巡回は勘弁
してほしい。
愚痴に近い考えを巡らせながら若い警察官は恐る恐る声をかけた。

若い
警察官

うずくまる
男性

若い
警察官

うずくまる
男性

若い
警察官
うずくまっていた男は急に立ち上がると警察官に飛び掛かった。
首に噛みつき、警察官から噴き出した血が勢いよく降り注ぎ、
自動販売機を赤く染めた。
6月15日 PM4:00
ヒューゴ・アンダーソンは走っていた。
昨日の夜に見はじめた海外ドラマを朝まで見ていたからだ。
毎回、話が終わるころに展開が大きく動くせいで、続きが気に
なってしまい次の話、次の話と見続けた結果、気付けば朝の5時
まで見てしまった。
そして、寝坊した。起きたのはお昼の3時だ。

ヒューゴ
今月もお金ないし、
バイトがクビになったらいよいよヤバいぞ
ヒューゴは人目がないのを確認して路地裏に入り、背負っていた
リュックサックに付属したスイッチを押した。

ヒューゴ
遅刻しそうだな…使わせてもらおう。
これぐらいの役得は許されるよね
リュックサックの中にはいかつい鉄の箱のようなものが入ってお
り、ヒューゴがスイッチを押すと翼が広がった。
そのまま鋼の翼を背中に装着し、天狗の仮面を顔につけ、上空に
飛びあがった。
仮面はしているものの、時間がなかったため体は私服姿という、
やや不格好な姿のサイバーテングの出来上がりだ。
翼をはばたかせ、一目散にバイト先に向かう。
ヒューゴ・アンダーソンはスーパーヒーロー「サイバーテング」
とアパレルショップ店員の二足の草鞋の生活だ。
普段は中野のアパレルショップで働きながら、東京の街を守れと
大天狗からの使命で、ヒーローとして活動している。
無事にシフトの時間に着替えを済ませ、その日も普段と変わらな
い業務を行っていた。
夕方日も落ちかけた頃、店に一人の女性客がやってきた。
まるで人形のような白い肌にまっすぐ伸びた艶やかな黒髪が白い
ワンピースによく似合っていた。
年齢は20歳くらいかそれより若くも見えた。
他に客もいないので、ヒューゴはその女性について接客していた。
その女性はミサキと名乗った。
試着室の使い方を知らなかったり、靴紐の結び方がわからなかっ
たりしたので、その度にヒューゴはミサキに細かく教えてあげた。
買い物をしたことがないお嬢様なのかな、とヒューゴは思った。
ミサキは次々へと服を選び、レジの上に二十着も置かれていた。

ヒューゴ

ミサキ

ヒューゴ

ミサキ

ヒューゴ

ミサキ

ヒューゴ

ミサキ
じゃ、一着にします。
ヒューゴさん、どれがいいか選んでください

ヒューゴ
全身のコーディネートで選んでみようか。
よし、じゃ、これなんかどうかな
ヒューゴが選んだのは、うっすらと羽根の模様が入った白いワン
ピースに若葉色のカーディガン、同じく若葉色のハットを選んだ。

ミサキ
素敵です!
えっとこれ、そのまま着ていくことはできますか?

ヒューゴ
ミサキはヒューゴの選んだコーディネートをその場で着てみせた。
ヒューゴの見立て通り、ミサキによく似合っていた。
白いワンピースがミサキの顔を明るく照らした。

ミサキ

ヒューゴ

ミサキ
会計を終えたミサキは、店を出ようとしたが、ふと足を止め振り
返った。

ミサキ
なんか、お腹すいてきちゃいました。
この辺りでおすすめのお店ありますか?

ヒューゴ
ありますよ!
中野は美味しい店が多いですからね。何がいいかな

ミサキ

ヒューゴ

ミサキ
少し残念そうな声で返事した。

ヒューゴ
でも、あと30分ぐらい待ってもらえれ
ば行けるかな。もうすぐ閉店の時間なので
ミサキの顔に花のような笑顔が戻る。

ミサキ
ヒューゴの閉店業務を待って、二人はハンバーガーを食べられる
美味しいダイナーに行った。
レンガ調の坂の途中にあり、店構えも洋風でおしゃれなヒューゴ
らしいチョイスだ。
「ハンバーガーを食べたことがない」というミサキにヒューゴは
食べ方を教えた。

ヒューゴ
友達には服を好きな人が多いんだ。
ユリヤは可愛い原宿っぽいデザインの服が好きだし、
神明さんはファッションデザイナーだよ

ミサキ
二人は他愛ない会話で盛り上がった。
食事を終えたあと、二人は明かりの灯された公園を歩いていた。
噴水の水面に光が反射してミサキを照らした。
ヒューゴはふと
「天使がいるならミサキさんみたいなんだろう」
と思った。
先を歩いていたミサキが振り返った。
そして唐突にヒューゴに向かってこう言い放った。

ミサキ

ヒューゴ
ヒューゴは唾をのんだ。
突然の告白の内容に頭の奥が冷たくなるような感覚があった。

ミサキ
どうしようもないみたいなんです。
でも、私自身ももう仕方ないと思っているんです。
気にしないでください。
だから、最後は普通に過ごしたいなって。
でも、普通に過ごすってどうしたらいいかわからなくて。
服でも買えば普通の女の子みたいになれるかと…
ミサキが自分がオベロン病という珍しい難病の患者であること。
オベロン病の患者は20歳まで生きられないこと。
免疫力の低下による合併症を防ぐために外出は硬く禁止されて
いること。
そして余命の少ない彼女に今日、一日だけ外出を許されたこと。
そんな話を聞いた。

ヒューゴ
ヒューゴは返す言葉が見つからなかった。

ミサキ
でも、今日、ヒューゴさんと一緒にいられて幸せでした。
今日わたし、普通の女の子でした
ミサキは微笑んで頷いた。
6月15日 PM6:00

ケヴィン
渋谷なんて街は近づくものじゃねーな。
この人混みはNY以上だぜ。こんなところに会社を作るやつの
気がしれねぇ…俺ならもっと静かなところにつくるけどな
出版社と打ち合わせの帰り道、ケヴィン・ブラウンは人混みの
多い場所に呼び出されたことに悪態をついていた。
元ボクサーのジャーナリストという異例な肩書を持ち、スポーツ
からスクープまで幅広く手掛けてるため、付き合いのある会社も
多い。
しかめっ面で歩いていると、道の真ん中に落ちているロザリオを
見つけた。

ケヴィン
ケヴィンは道に落ちたロザリオを拾い上げ、自分のポケットにし
まった。

ケヴィン
6月15日 PM19:00
渋谷区を拠点とするヒーロー、
メルティスイートのユリヤ・ベノワは16歳の女の子だ。
街を歩いている様子は普通の女の子と何ら変わらない。
ロシアからの留学生である彼女は学校からの帰り道だった。

ユリア
今日は疲れた…
家に帰ってスムージーのほっぺをもちもちしたい
公園通りを抜け、SHIBUYA109を過ぎたあたり、道玄坂
で一人で座っている子供を見つけた。
見た目は十歳にも満たない。
19時過ぎに道玄坂に子供が一人でいるのは珍しい。
彼女は明るい調子で話しかける。

ユリア
道端に座った少年はユリヤを見つめて無表情で答えた。

少年

ユリア

少年
少年の言葉が気になりユリヤは首をかしげた。

ユリア

少年

ユリア
少年は杖をついた男性に駆け寄り、突然声をかけた。

少年

盲目の男
そこにいるのは小さな男の子だね。
そうなんだ、おじさんは目が見えないんだ

少年
少年が男性の顔に手を当てた。一瞬、少年の手が光ったように
見えた。
男性は何かを感じたのか驚いた表情を浮かべた。
そして、恐る恐る瞼を開けた。

盲目の男
目の前で起こった奇跡にユリヤも驚いた。

ユリア

シロウ
シロウは無邪気な笑顔だったが、なぜかユリヤの胸はざわついた。
きっと、この子も自分と同じヴァリアントパーソンだ。ユリヤは
確信していた。
人知を超えた特殊能力を持ったヴァリアントパーソンの力は正し
くも使えるし、また脅威にもなる。

シロウ
そう告げるとシロウはその場から姿を消した。

ユリア
6月15日 PM21:00

ケヴィン
ケヴィンは追われていた。
同じ道を同じ男が後ろから歩いてきている。
恐る恐る振り向いてみた。
やはり後ろにいる。
その男ときたら顔色が悪い。
顔に血が通っていないのではないかと心配になるほど灰色だった。

ケヴィン
ケヴィンは振り向いて立ち止まってみることにした。
勘違いなら通り過ぎてくれるに違いない。
男はケヴィンの方に近づいてくる。
一歩ずつ、
一歩ずつ。
少しずつ足早になってケヴィンに迫る。
男と目が合う。
その視線はしっかりとケヴィンを捉えていた。
あと20メートルに迫った時、ケヴィンは踵を返し走り出した。

ケヴィン
走るケヴィンの後ろで男も早足になる。

ケヴィン
なんでお前ついてくるんだよ!てか誰なんだよ!
他にも人がいるのに、なんで俺にだけついてくるんだ!?

奇妙な男
男の口から返答の代わりに発せられたのは言葉ではなく声が漏れ
だだけの音だった。

ケヴィン
なんなんだよ!ゾンビなのか!?
まさかと思うがゾンビなのか!?
前なら信じなかったが、巨大なカラスや布人間を見た後だと
信じるられるぜ!
お前、ゾンビなんだろ!?
ケヴィンは走りながら、相手に聞こえる声の大きさで独り言を
つぶやいた。
全速力で走った。現役を引退したとはいえケヴィンはボクサーだ。
現役時代は走り込みを毎日していたし、今だってワークアウトと
してマラソンは欠かさない。
しかし、男はケヴィンに追いついてくる。

ケヴィン
ゾンビは遅いもんだろ!?
走るタイプのゾンビは俺苦手なんだよ!
さすがのケヴィンも息が上がってきた頃、前方の車の扉が開いた。

ジェームズ
そこにいたのはジェームズ・キリタニだった。
ケヴィンは渡りに船とばかりにジェームズの車に飛び乗った。
ジェームズは平賀源磁に仕える執事だ。
華麗に物事をこなす様子から周りからは「万能執事」と呼ばれて
いる。
車の運転が好きで、戦闘用に改造した車に乗ってヒーローたちを
陰ながら助けている。

ケヴィン
シートベルトを装着しながら、ケヴィンは礼を述べた。

ジェームズ
あなたが走っているのを見かけて先回りしました。
あの男に追われているのですか?

ケヴィン
そうなんだ。
あの男がずっと俺のあとを走って追ってくるんだ

ジェームズ
何かされたのでは?
からかったとか、足を踏んだとか

ケヴィン
何もしてないさ!
第一、あの男を見たのも今日がはじめてだし

ジェームズ
突然、車の前方に男が現れた。
ジェームズは咄嗟にハンドルを切って男を避ける。

ケヴィン
おいおいおいおい。
何であいつ俺の場所がわかるんだよ。
GPS電波でも漏れているのか

ジェームズ
妙ですね…
こっちは車で走っているのに抜け道でもあるのでしょうか」
再び男が車の前に現れる。
ぶつかりそうになるところを再度ジェームズはかわした。

ケヴィン
やっぱりじゃねーか!
ワープしてるぞあの男!?
なんなんだよ全く!!
ケヴィンは携帯電話を取り出し、電話口に叫んだ。

ケヴィン
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