時は20XX年、世界はリンゴの毒に包まれた。しかし、小人たちは……死滅していなかった!
「に、逃げろ、ライト! オレのことはいいから、早く……うわあぁっ!?」
妖精の郷に、小人族たちの悲鳴が木霊する。
「グリーン!? くっ……!」
木々の間を走って逃げている途中、転んでしまったグリーン。ライトが思わず足を止め、背後を振り向いてみれば、既に危機はそこまで迫ってきていた。
「お、グリーン、どうしたんだぁ? もう逃げねえべか? ぐふふふ」
グリーンの目の前に立っているのは、ブラウンであった。その両目は爛々と輝き、口の端からはよだれが垂れ、既に下半身は丸出しになっている。
「ブラウン、やめなさい! どうしてこんなことを……!」
ライトに鋭く叱咤されても、ブラウンは下卑た笑みを浮かべ続けていた。
「ぐふふふ……だって、しょうがないべ。女の子たち、みんな死んじまったんだぞ? こうなったらオラが……オラたちが、ラブラブになるしかねえんだ!」
「待て、その理屈はおかしい!」
へたりこんだまま言うグリーンへと、ブラウンは叫んだ。
「うるせえーっ! もうこれしかないんだよぉ!」
「──ハアッ!」
瞬間、横合いの茂みから飛び出してきた影が、ブラウンの首めがけて、不意打ちの延髄蹴りを放った。隠れ身の術を会得した小人族、グレイである。
「ぐっ……!?」
ブラウンの巨体が揺らぐ。
「やりましたか!?」
ライトの表情がパッと明るくなる。しかし、その顔が絶望に彩られるまでは一瞬だった。
「ぐふふふ……いま、何かしたかぁ?」
「なっ!? ぐ……ぐはっ!」
グレイの蹴り足は、ブラウンの手に掴まれていた。そのままブンと放り投げられ、木の幹に叩きつけられてしまう。
ブラウンは満面の笑みを浮かべて言った。
「みんなまとめて、相手してやる……さあ、やろうぜ! 心ゆくまで!」
そして、宵闇迫る森の影に、
「アッ──!?」
小人族の悲鳴が、木霊するのだった……