「──みなさん、聞きました? 隣の国が攻めてくるって噂」
「聞いた聞いた。どうなっちまうのかねえ」
「女王様が崩御なされてからこっち、どこもこの国を狙ってるそうで」
「参ったな。この国も、もう終わりかもしれない……」
雪深い国の町では、住民たちが不安げに語り合っていた。無理もないことだ。為政者の死は民にとって、守護者の喪失に他ならない。それがたとえ、魔女と呼ばれた女王であっても。
民草の不安が、最高潮に達した……そのときである!
石畳を打ち鳴らす鋭い馬蹄の響きと共に、雷鳴の如き声が木霊した。
「案ずるな、我が民よッ!」
巨大な白い馬に跨り、純白のフルメタルプレートアーマーを着込んだ、馬上の姿がそこにはあった。胸には赤いリンゴの紋章。
「余がいるかぎり、この国を食い物にはさせぬぞ!」
威風を放つ騎士の背後には、同様に馬上の影がずらりと並んでいる。いずれも名うての騎士たちであった。
「おおっ、白雪姫様だ!」
「白雪姫と、円卓の騎士たちだぞ!」
民たちは自然とその場に膝をつき、床に額をこすりつけ始めた。
白雪姫は巨大なハルバードを天高く突き上げ、叫んだ。
「天よ、地よ、ご照覧あれ。この白雪が武勇を! さあ者ども、参るぞ!」
馬具を操り、人馬一体となって駆けてゆく一団。全ての敵をなぎ倒した先に、楽園があると信じて。
前女王である母と配下たちを皆殺しにして、王座を簒奪した、血塗られた姫君。そのように嘯く声も未だにあるが、いずれは皆、静かになることだろう。
どこまでも、行こう。この身が鉄に錆びるまで。武力を以て支配しよう……それこそが、母が身をもって教えてくれたことなのだから。
戦の最中にあってこそ、白雪姫は、前女王との間の絆を感じることができるのだった。