Episode4 わたし、お姫様やめます!

 女王必殺のリンゴの毒が見事に決まり、白雪姫は死んでしまった。姫を匿っていた小人族は嘆き悲しんだが、もうどうしようもない。特に、ロゼの悲しみようといったらなかった。

 棺桶に入ったまま、美術品のような姫を眺めながら今日も泣きはらしていると、ひとりの人間の男が通りがかった。

「やあ、小人のお嬢さん。何を悲しんでいるんです?」

 ロゼが泣きはらした目を持ち上げて言う。

「何をって、見てわかるでしょ!? あたしの友達が死んじゃったのよ!」

 男は棺桶を覗き込むと、眉をひそめた。

「なんと……こんな若い身空でお召し上げになるとは、神様も憐れなことをなさる。よし、ひとつ私にお任せなさい」

 男はおもむろに、懐からガラス製の小瓶を取り出すと、中身を白雪姫へと飲ませた。

「ちょっと、何してるの!? ていうかあんた誰よ!」

「──けほっ!」

 ロゼが男へと食って掛かったとき、それまで微動だにしていなかった白雪姫が突然咳き込んだ。棺桶の縁に手を掛けて身を起こす。

「えっ!? 白雪!」

「あら、ロゼ……おはよう。わたし……どうなったの?」

 白雪姫も戸惑っていたが、ロゼはそれ以上に戸惑っている様子だった。

 謎の男が微笑んで言った。

「もしものときのために持ち歩いている霊薬ですが、効果があってよかった。それでは、私はこれで」

「あっ、ちょ、ちょっと待って……お待ちください!」

 そのまま去ろうとする男を、白雪姫が呼び止めた。氏素性を聞いてみれば、なんと隣の国の王子だというではないか。

 白雪姫は、

「あの……不躾なお願いであること、承知の上で申し上げます。わたしを、貴方の国に連れて行ってくださいませ!」

「えっ!?」

「ちょっと白雪、何言い出すのよ突然!」

 目を丸くする王子とロゼに、白雪姫はさめざめと言った。

「わたし、もうイヤなの……お母様に命を狙われるくらいなら、この国のお姫様なんて、もうやめます!」

 数年後、隣国の王子は美しい妻を迎え、この雪深き国の玉座には、初の小人の女王が座ることになるのだが……それはまた、別のお話。