切り裂き魔のブラックと、ペテン師のネイビーといえば、邪悪な黒小人として知らぬ者はいない。森に迷い込んだ人間を傷つけたり、騙して谷底に落とすなどして、妖精の郷を追い出された裏切り者どもだ。
そんなふたりが、さる国の女王の配下に召し上げられた理由は、ただひとつ……女王のひとり娘である姫の暗殺のため……
「──こちら、順調に進んでおります。近々、姫様の首をお持ちできるかと」
夜のとばりが下りた頃、妖しい魔力に包まれた城へとやって来たブラックは、玉座の前に傅いてそう言った。メガネの奥の瞳はナイフの刃よりも鋭く、血の予感に濡れている。
隣に立ったネイビーが、言葉を継ぐ。
「いやあ、それほど簡単な仕事ではないかもしれませんよ? なにしろ姫様、意外にやり手なんだもの。小人を五匹も仲間にしてさ……いや、十匹だったかな?」
ふたりの前、玉座に腰を下ろした女王は、深く息を吐いた。
「いずれにせよ、お前たちに任せます。首尾よくやりなさい」
「は……しかし陛下、なにやら物憂げなご様子。ご心配ですかな?」
ブラックにそう尋ねられると、女王は目を細めて、
「……あの子は、苦しむかしら?」
「さて? どうでしょう。それこそ、魔法の鏡でもなければわかりませんね」
ブラックが言うのに、ネイビーはおどけた調子で両手を広げた。
「それはもう、苦しむと思いますよ? 陛下が用意してくださった武器は、どれも素晴らしい代物ですからねえ。しかし、最期はボクがこの手で首を締めましょう。それはもう確実に、ああ……母上、どうして……ギュッ! と、このような感じで!」
女王は疲れたように呟く。
「……もういいわ、下がりなさい」
黒小人たちは、顔を見合わせ肩を竦めた。
やはり人間というのは、どうにもわからない、と。