女王必殺のリンゴの毒が見事に決まり、白雪姫は死んでしまった。姫を匿っていた小人族は嘆き悲しんだが、もうどうしようもない。特に、ロゼの悲しみようといったらなかった。
棺桶に入ったまま、美術品のような姫を眺めながら今日も泣きはらしていると、ひとりの人間の男が通りがかった。
「やあ、小人のお嬢さん。何を悲しんでいるんです?」
ロゼが泣きはらした目を持ち上げて言う。
「何をって、見てわかるでしょ!? あたしの友達が死んじゃったのよ!」
男は棺桶を覗き込むと、眉をひそめた。
「なんと……こんな若い身空でお召し上げになるとは、神様も憐れなことをなさる。よし、ひとつ私にお任せなさい」
男はおもむろに、懐からガラス製の小瓶を取り出すと、中身を白雪姫へと飲ませた。
「ちょっと、何してるの!? ていうかあんた誰よ!」
「──けほっ!」
ロゼが男へと食って掛かったとき、それまで微動だにしていなかった白雪姫が突然咳き込んだ。棺桶の縁に手を掛けて身を起こす。
「えっ!? 白雪!」
「あら、ロゼ……おはよう。わたし……どうなったの?」
白雪姫も戸惑っていたが、ロゼはそれ以上に戸惑っている様子だった。
謎の男が微笑んで言った。
「もしものときのために持ち歩いている霊薬ですが、効果があってよかった。それでは、私はこれで」
「あっ、ちょ、ちょっと待って……お待ちください!」
そのまま去ろうとする男を、白雪姫が呼び止めた。氏素性を聞いてみれば、なんと隣の国の王子だというではないか。
白雪姫は、
「あの……不躾なお願いであること、承知の上で申し上げます。わたしを、貴方の国に連れて行ってくださいませ!」
「えっ!?」
「ちょっと白雪、何言い出すのよ突然!」
目を丸くする王子とロゼに、白雪姫はさめざめと言った。
「わたし、もうイヤなの……お母様に命を狙われるくらいなら、この国のお姫様なんて、もうやめます!」
数年後、隣国の王子は美しい妻を迎え、この雪深き国の玉座には、初の小人の女王が座ることになるのだが……それはまた、別のお話。