Episode3 ロゼのアップルーレット

 森の奥深く、妖精の郷のほど近く。やわらかな西日が差す丘の上。小人族のロゼは木の枝に腰を掛けて、遠くを見ていた。遠い夕暮れの彼方、人間の町がある方角を。

「──おーい、ロゼ? 何やってるんだ? そろそろ夕食の時間だぞ」

 ロゼはパッと振り向いた。木の根元に、いつのまにか仲間の小人族が立っていた。

「あら、もうそんな時間? あたし、あの子を待ってるのよ」

「あの子って、あの人間の……白雪とかいう子のこと?」

「そうよ! だって白雪は、あたしの親友なんだもん」

 屈託なく微笑むロゼに、小人族は一瞬言葉に詰まった様子だった。

「……ねえ、ロゼ。あの子はもう、この森には来ないと思うよ」

「えっ? どういうこと?」

「あの子は人間たちの国に帰ったんだ。悪い女王様が死んで、安全になったんだろう? 人間は、人間の国で暮らすべきだよ」

 ロゼは目を丸くした。

「えーっ? じゃあもう会えないの?」

「その方がいいんだ。オレたちは人間に関わっちゃいけない」

 ロゼはイヤイヤするように首を振った。

「そんなことないわ! だってあたしたち、親友なのよ? 親友が離れているなんて、間違ってるのよ」

 ロゼは不意に立ち上がると、

「そうだ! 決めたわ。あたし、白雪のところに行ってくる。だってあたしたち、親友なんだもの!」

「えっ、おいロゼ、ダメだって!」

 仲間の小人族の言葉も聞かず、ロゼは枝を蹴って跳んだ。そのまま風のように走り出す。

 彼女は昔から、人間に強烈な憧れを抱いていた。白雪と出会ったことで、その思いは肥大化し、もはや止めようもなく凶暴になっていた。彼女自身ですら、どうしようもないほどに。

「待っててね、白雪、今行くからね! あたしたち、ずっと一緒よ! あたしを置いていくなんて、許さないから……あはは、あはははは!」