森の奥深く、妖精の郷のほど近く。やわらかな西日が差す丘の上。小人族のロゼは木の枝に腰を掛けて、遠くを見ていた。遠い夕暮れの彼方、人間の町がある方角を。
「──おーい、ロゼ? 何やってるんだ? そろそろ夕食の時間だぞ」
ロゼはパッと振り向いた。木の根元に、いつのまにか仲間の小人族が立っていた。
「あら、もうそんな時間? あたし、あの子を待ってるのよ」
「あの子って、あの人間の……白雪とかいう子のこと?」
「そうよ! だって白雪は、あたしの親友なんだもん」
屈託なく微笑むロゼに、小人族は一瞬言葉に詰まった様子だった。
「……ねえ、ロゼ。あの子はもう、この森には来ないと思うよ」
「えっ? どういうこと?」
「あの子は人間たちの国に帰ったんだ。悪い女王様が死んで、安全になったんだろう? 人間は、人間の国で暮らすべきだよ」
ロゼは目を丸くした。
「えーっ? じゃあもう会えないの?」
「その方がいいんだ。オレたちは人間に関わっちゃいけない」
ロゼはイヤイヤするように首を振った。
「そんなことないわ! だってあたしたち、親友なのよ? 親友が離れているなんて、間違ってるのよ」
ロゼは不意に立ち上がると、
「そうだ! 決めたわ。あたし、白雪のところに行ってくる。だってあたしたち、親友なんだもの!」
「えっ、おいロゼ、ダメだって!」
仲間の小人族の言葉も聞かず、ロゼは枝を蹴って跳んだ。そのまま風のように走り出す。
彼女は昔から、人間に強烈な憧れを抱いていた。白雪と出会ったことで、その思いは肥大化し、もはや止めようもなく凶暴になっていた。彼女自身ですら、どうしようもないほどに。
「待っててね、白雪、今行くからね! あたしたち、ずっと一緒よ! あたしを置いていくなんて、許さないから……あはは、あはははは!」