雪深い国の、森深い城の中で、ひとりの女の子が泣いている。小さな身体には不釣り合いな玉座に座り、両手で顔を覆って。泣き声は、この国の長い冬のはじまりにしんしんと降る雪に似て、寒々しい石造りの床に降り積もっていくようだった。
女の子は美しかった。だがその美しさこそが、結局、彼女をこうしてひとりにしたのだ。震えているのは、寒さばかりが理由ではない。
「ごめんなさい……ごめんなさい、お母さま……」
消え入りそうなか細い言葉が、寂寞とした薄闇の中に響いている……と、誰もいないはずの城内に、応える者があった。
「女王様、泣くことはありませんよ」
女の子はびくりと顔を上げた。
壁にかかった、豪奢だが陰気な印象のドレープが、ひとりでにさっと左右に分かれていった。そこには大きな鏡があって、声はその鏡から聞こえてくるのだった。
「私は貴女様のしもべ、魔法の鏡でございます、女王様」
女の子は泣き疲れた表情に、驚きの色を浮かべた。
「わたしは違います。女王様は、わたしのお母様ですわ」
「いいえ、今は貴女が女王様でございますとも」
鏡は妖しい光を帯びていた。
「さあ、女王様、お尋ねください。私は貴女様のしもべ、罪の意識の消し方も、孤独からの救われ方も。どんなことでもお教えいたしますぞ」
女の子の瞳には、鏡の妖しい光が映り込んでいた。どこへ行けばいいのか? 何をすればいいのか? 何もわからなかった。教えて欲しかった。
「鏡よ、鏡……」
言葉は自然に、唇からこぼれていた。雪深い国の、森深い城の中で……