Episode1 白雪姫のアップルーレット

雪深い国の、森深い城の中で、ひとりの女の子が泣いている。小さな身体には不釣り合いな玉座に座り、両手で顔を覆って。泣き声は、この国の長い冬のはじまりにしんしんと降る雪に似て、寒々しい石造りの床に降り積もっていくようだった。

 女の子は美しかった。だがその美しさこそが、結局、彼女をこうしてひとりにしたのだ。震えているのは、寒さばかりが理由ではない。

「ごめんなさい……ごめんなさい、お母さま……」

 消え入りそうなか細い言葉が、寂寞とした薄闇の中に響いている……と、誰もいないはずの城内に、応える者があった。

「女王様、泣くことはありませんよ」

 女の子はびくりと顔を上げた。

 壁にかかった、豪奢だが陰気な印象のドレープが、ひとりでにさっと左右に分かれていった。そこには大きな鏡があって、声はその鏡から聞こえてくるのだった。

「私は貴女様のしもべ、魔法の鏡でございます、女王様」

 女の子は泣き疲れた表情に、驚きの色を浮かべた。

「わたしは違います。女王様は、わたしのお母様ですわ」

「いいえ、今は貴女が女王様でございますとも」

 鏡は妖しい光を帯びていた。

「さあ、女王様、お尋ねください。私は貴女様のしもべ、罪の意識の消し方も、孤独からの救われ方も。どんなことでもお教えいたしますぞ」

 女の子の瞳には、鏡の妖しい光が映り込んでいた。どこへ行けばいいのか? 何をすればいいのか? 何もわからなかった。教えて欲しかった。

「鏡よ、鏡……」

 言葉は自然に、唇からこぼれていた。雪深い国の、森深い城の中で……